文档:听到涛声 BD/作品解说

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プロデューサー
 
 企画というモノは、いつだって、誰かの不純な動機から始まる。今作の場合、それは徳間書店の編集者だった三ツ木早苗である。彼女は最初から目論んでいた。当代の大人気作家だった氷室冴子さんに本を書かせ、その原作を元にジブリで映像化する。なにしろ氷室さんは、当時、集英社のお抱え作家で、そこへ徳間が食い込むことは至難の業だった。それをジブリを餌に実現したのだから、見事という他は無い。
 彼女の得意技は、大酒を飲んでも酔っぱらわないこと。お酒が大好きだった氷室さんに、彼女はこの得意技を大いに発揮するはずだった。しかし、ぼくの記憶だと、酔っぱらって前後不覚になった三ツ木早苗を自宅まで送り届けたのは、いつだって氷室さんの方だった。だが、氷室さんという人は、そのことを意に介さない。どういうことかといえば、いつも接待づけで下にも置かない編集者たちにうんざりしていたのだろう。はじめてジブリを訪れた氷室さんは、心底、嬉しそうにこの逸話を語った。
 というわけで、三ツ木早苗が氷室さんを伴ってジブリに登場したときは、氷室さんはすでに彼女の手中にあった。作家と編集者の立場の逆転。作家は、時としてマゾになって、そのことを喜びとする。訳の分からないことを口走る三ツ木早苗のフォローをするのは、もっぱら、氷室さんの役割だった。
 事はどんどん速やかに順調に進んだ。最近の映画の主人公は不良ばかり。優等生を主人公にすると、いま、どうなるのか? 舞台は土佐の高知。地方都市を舞台に、やがて、都会へ出て行く高校生たちの青春群像。卒業の時、高知は東京へ行く人と関西へ行く人に分かれる。そこがおもしろいと氷室さんは、一気に話した。それを傍らでニコニコしながら、頷き、相づちを打つ三ツ木早苗。タイトルは、海がきこえる。
 その後、アニメージュで連載が始まるが、間を置かず、映像化の話も同時進行する。日本テレビでの放映もあっという間に決まった。祝日の午後の特別番組。となると、いつものメンバーがジブリに集まってくる。気がつけば、すべての関係者が三ツ木早苗の掌の上で踊っていた。そういえば、魔女の宅急便の時、三ツ木早苗は、すでに氷室さんと宮崎駿の対談をモノしていた。
 あれから22年、その間に氷室さんは若くして亡くなった。三ツ木早苗は、その後も徳間書店で編集の仕事を続けた。彼女の名前は、映画の中で大きくクレジットされたわけでは無い。しかし、この逸話でおわかりのように、彼女こそがこの映画の真のプロデューサーだった。
 
2015年4月
スタジオジブリ・プロデューサー  鈴木敏夫
 
(「海がきこえる」のブルーレイディスク発売に向けて書かれたものです。)